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最高裁判所第二小法廷 昭和56年(オ)572号 判決

上告人

甲野亘

右訴訟代理人

西尾文秀

被上告人

甲野広子

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人西尾文秀の上告理由について

仮に、訴外甲野花子についての原判示養子縁組が所論のとおり無効であるため、第一審が未成年者である右訴外人につき親権者の指定を脱漏し、原審がこれを補充しなかつたことになるとしても、判旨離婚判決において親権者の指定の脱漏があつた場合には、当該判決をした裁判所が追加判決をすべきものであるから、原判決に右脱漏のあることは上告適法の理由にあたらない。論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(鹽野宜慶 栗本一夫 木下忠良 宮﨑梧一)

上告代理人西尾文秀の上告理由

原判決もその理由一5の中で確定しているように上告人と被上告人との間には昭和五三年六月一七日長女花子が誕生した。

右花子は、同年七月二四日上告人の両親である甲野太郎同人妻百子の養子となつた。

しかしながら、右養子縁組は、前記甲野太郎夫妻が花子の育児に困り、同女の生命の危機さえ感ずるに至つて切羽詰つた挙句、同女を県下の乳児園へ入れる手段として、代諾権者たる上告人及び被上告人に無断で縁組届をしたものである(原判決理由一7)。

従つて、右縁組は当事者の一方たる代諾権者に縁組をする意思がないのであるから無効である(民法八〇二条一項)。しかも、その後上告人、被上告人において右縁組に対する追認もないのであるから、右縁組は現在においても無効といわざるを得ないのであるが、その無効は絶対無効であり、人事訴訟手続による確定または戸籍の訂正に拘らず何時でも何人においてもこれを主張しうべきものである(昭和三八年一二月二四日最高裁判所第三小法廷判決刑集一七巻一二号二五三七頁、昭和一五年一二月六日大審院判決民集一九巻二三号二一八二頁)。

他方、本件訴訟のごとき裁判上の離婚の場合は、裁判所は職権により判決主文に掲げて父母の一方を親権者と定めなければならない(民法八一九条二項人事訴訟法一五条三項、五項)。

そうすると、本件訴訟においては当然のことながら、その判決主文で花子の親権者として上告人か、被上告人のいずれかを指定しなければならない筋合のものである。

しかるに原判決は、前記理由一7において「花子は被控訴人に無断で昭和五三年七月二四日控訴人の両親の養子として縁組届がなされ、その後間もなく控訴人の両親によつて小豆島の養護施設に預けられ現在に至つている。」と認定しながら、その判決主文において花子のために親権者の指定をしていないのであるから、明らかに民事訴訟法第三九四条後段に該当するものである。

ところで、右花子は昭和五六年三月一日前記養護施設から甲野太郎に引き取られ母のいないさびしさを我慢しながら毎日を送つているが、もし原判決を是認すべきとする時は、右花子は法律上親権者のいない状態におかれることになり、子の幸福を意図する法の精神を根底からくつがえす結果を招来することになる。以上の点から原判決は当然その破棄を免れないというべきである。

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